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2018.03.17

OSN121工業大辞書

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明治時代末に刊行が始まった『工業大辞書』という用語辞典がある。若き日の岡田信一郎が同書の項目を執筆しているので、調べてみた。

『工業大辞書』は同文館が企画した『大日本百科辞書』の一部で、収録語は6千以上、4千ページを超える大著である。本文を8冊に分けて、1909年(明治42年)に刊行が始まり、1913年(大正2年)に完結した。

同書の復刻版(本文4巻、索引1巻)を刊行した日本図書センターの公式サイトによれば、「明治期を代表する学者を動員した大型辞典として定評」があり、「工業はもとより陸海軍・外務・文部・鉄道など幅広い分野の執筆人による充実した内容であり、近代史・社会史研究のための歴史用語辞典」であるという。
建築史家の村松貞次郎は、工業大辞書について「理論的には未だ建設期ではあるが反面、生産の現実によく根ざした成果を総決するものである」と述べている。(『近代日本建築学発達史』P401に引用)

まず、本書の建築関連の執筆者を挙げておくと、刊行開始当初(1909年)では以下のとおり。
伊東忠太、関野貞、塚本靖、中村達太郎(以上、工学博士)
内田祥三、大熊喜邦、岡田信一郎、葛野荘一郎、佐藤功一、佐野利器、中村伝治、前田松韻(以上、工学士)

刊行途中で、北村耕造、倉田謙、内藤多仲、松井清足、山崎静太郎(いずれも工学士)が執筆に加わった。

次に、本書の発行の経緯について考察する。

(1)辞書巻頭の「凡例」には次のようにある(時点が明記されていない)。

*1年半かけて1万8千余の語の目録(述語撰定の原案)を作成した
 (建築では大熊喜邦が担当)
*夏から冬にかけて(「酷暑・勁秋・厳寒の三季」)、各分野の術語を統一するため、大小78回の「術語撰定会」を開催した
 (建築では中村・伊東・塚本博士) 

目録作成の中心になったのは大熊喜邦だという。1903年から1907年まで東京帝国大学建築学科の大学院に在籍していたためだろう(大熊は横河工務所にも籍があり、帝国劇場等の設計に関わったという)。

(2)辞書の編集に携わった金太仁作(同文館)が、完結時に執筆した記事(「工業大辞書編纂に就て」、『工業之大日本』T2.10.1)を見ると以下のようである。

*明治38年の末頃から目録の編纂に取りかかった
*18か月間に90回以上の「術語打合せ会」を開き、1万8千の語を得た
 (建築では伊東、中村(達)、関野、塚本、大熊、岡田、葛野ら10数人が従事し、原案5千600語から必要な語を選んだ)
*さらに精選し、8千余の術語とした

(3)『工業大辞書』の発行に際して、次の新聞広告が出ている。
*1908年6月に予約受付を開始、7月10日を予約期限とし、「第一冊八月中 以下逐次刊行」(8月に第1冊、以下順次刊行する)と予告(1908.6.2東京朝日)
*(実際には遅れて)1909年4月に第1冊(あ~え)を発売(1909.4.14東京朝日)

以上を総合して、時点を推測してみる。

*1905年(明治38年)の末頃(12月?) … 目録(術語の原案)作成に着手
*1年半後=1907年5月頃? … 約1万8千の目録ができる
*「酷暑」の時期=1907年7月頃? … 術語撰定会を開催
*「厳寒」の時期=1908年1月? … 術語撰定を終える
*各項目の担当者を決め、各自が執筆に取りかかったのはそれ以降か?
*(当初)第1冊の刊行は1908年8月を予定か?

ここで疑問が出てきたが、例えば原稿が集まってから、活字を組み校正刷りを出すまでどれくらい日数がかかるものだろうか。これだけでも相当な期間がかかりそうである。
仮に1908年1月に各担当者が執筆を始め、順調に原稿が集まったとしても、同年の8月に刊行することが可能であろうか。
(6月の時点で広告に「第一冊八月中」と記しているからには、原稿はかなり集まっていたと思うが)

今のところ手がかりは「凡例」と金太仁作の記事しかない。(疑問は残るが)ひとまず、1908年より執筆を始めたと推測しておく。

いずれにしても、原稿が最後まですべて集まってから刊行を開始した訳ではないことは、刊行途中から参加した執筆者がいることからも察せられる。
金太仁作の記事には、

目次の排列が五十音順であるから『ア』字の中で『亜鉛』の一語が遅れても進行ができぬ(…)当時では殆んど毎月一人位洋行せられるから補欠丈けでも大変な労力であつた。
と書いてある。執筆の遅い者もおり、洋行する者もいて(建築では塚本、佐藤、佐野、前田らが刊行途中で海外へ出かけている)、編集者も苦労させられたことがうかがえるのである。

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