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2015.07.19

OSN114堀切善次郎

以前の記事で、神奈川県庁舎の設計に岡田信一郎が関わっていたことを書いた。
当初の案では塔がなく、岡田の提案により中央に高い塔を置くようになったというが、不明な点も多い。これに関わる資料を見つけたので紹介したい。

県庁舎の計画から完成までの間に、県知事は2回替わった。1925年、清野長太郎知事のときに設計が始まるが、同年9月、清野は復興局長官に転じ、堀切善次郎が知事になった。翌年3月、設計コンペが実施され、6月に当選案が決定。9月に清野長官が病気で亡くなり、堀切がその後任になったため、池田宏が知事に就任。12月に地鎮祭が行われた。2年近くの工事を経て、1928年11月、開庁式が行われた。
堀切知事の時代は約1年と短いが、設計コンペの開催、設計案の決定という重要な時期にあたる。

40年近く後の1963年、堀切の談話を内政史研究会が記録した(「現代史を語る」7所収)。ちなみに堀切は岡田の1歳下である。談話当時は80歳(数え)になる。

[内務省]土木局長から神奈川の知事に行きましたが、(…)いまの神奈川県庁を建てたのがこのときの私の案なのです。(…)前の知事の清野(長太郎)さんから引継ぎをうけたのでは、(…)岡田信一郎 この技師にすっかりまかせて、その人に頼んであるからということでした。(…)どんな建物を建てるかその図面を書いてもってきてくれと、そういったら書いてきてくれたのですが、みな普通のコンクリートのマッチ箱式の何の趣味もない建物なのですね。これじゃ県庁の建物にあまり面白くないから、もう少し何か工夫して書いてくれといったら、また他に二枚か三枚もってきましたが、いずれもみなマッチ箱式のもので、どうも私は甚だ感心しない。
「マッチ箱式」の設計案に不満だった堀切は、佐野利器、内田祥三、大熊喜邦を知事官邸に招いた。そして、岡田の案には感心できないので懸賞募集にしたらどうか、と提案すると、皆が賛成したという。

懸賞募集に際して堀切は、「海のほうから外国船が入ってきたような場合でも、一見して直ちに県庁の建物だとわかるふうな設計にしてほしいという素人の条件をつけた」という。
高い塔を持つ庁舎ができたのは自分の指示によるものだという自慢話である。

堀切の記憶違いや誇張が含まれているかもしれないが、細部も具体的であり、岡田信一郎による当初の案が「マッチ箱式」のものであったこと、佐野・内田・大熊らを審査員に迎えて設計コンペを実施したことなど、おおむね事実に沿っている。

以前の記事にあった、「海港の玄関らしく」「(開港)記念会館を凌ぐ高塔」を設けるという構想は、やはり岡田の発案というよりも、堀切から出たものなのだろうか。
岡田ファンとしては、設計変更をめぐる堀切と岡田のやり取りについて、さらに詳しく知りたいところである。
当時の日記等が残っていればいいのだが、堀切の自宅は戦災にあっており、文書は残っていないという。

なお、堀切は設計コンペの当選者についても語っている。名前は挙げていないが、小尾嘉郎のことである。

当選したその技師を主任技術者に招聘しようと(…)調べたのですが、一等当選者は東京市役所の電気局の建築技手です。(…)東京市役所に照会してみると、勤務成績きわめて不良と書いた回答がきたのですね、(…)きいてみると天才肌で、気が向くと非常に一生懸命になってやるけれども、気が向かないと一週間ぐらい、どこへ行ったか無届欠勤を始終だというのです。それで結局採用はやめました(…)
「採用はやめました」というが、堀切が復興局長官に転じた後の1926年10月になって、小尾は神奈川県に採用された。ただし「主任技術者」ではなく、一技手としての採用である。下働きのようなもので、小尾のプライドは傷付いたことだろう。小尾はわずか3か月ほどで県庁を退職した。
堀切は、小尾の勤務態度が問題としているが、小尾の側にも言い分があっただろう。

小尾嘉郎の経歴については、佐藤嘉明氏の学位論文第3章で詳細に述べられており、今回の記事もこれによっている。興味のある方は参照していただきたい。

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コメント

http://chuta.cocolog-nifty.com/arch/2013/07/osn083-42c5.html

(以前の記事のコメント欄に追記しておきました)
ようやく資料が見つかり、塔を設けるという構想が堀切の提案によるものであることがはっきりし、個人的にはスッキリした次第です。

ただし、岡田の設計案ですぐにも着工予定だったはずが、なぜ遅くなったのか(堀切が設計変更を主張したためだけか?、他にも何かあったのか?…)、理由を知りたいところです。

投稿: 岡田ファン | 2015.11.23 22:07

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