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2014.09.12

OSN091清水仁三郎

以前、「岡田と都市計画」の項で、1918年(大正7年)2月、建築学会など4団体が連名で、建築法令の制定に関する意見書を寺内首相、後藤内相らに提出したことを記した。

(注)当時はまだ建築を規制する法令がなく、建築学会等が制定運動を行っていた。正確に言うと、このとき(2月6日)首相は病気で、官邸の秘書官に面会した。
当日、首相官邸等を回ったメンバーの中に岡田の名前があり(朝日新聞1918.2.7ほか)、再度調べてみたのだが、記事に少々混乱があり、岡田は同行していなかったようだ。
実際に回ったのは、4団体代表の塚本靖(建築学会副会長)、長野宇平治(日本建築士会会長)、片岡安(関西建築協会理事長)、藤原俊雄(都市協会幹事)と、清水仁三郎であった。(建築雑誌、関西建築協会雑誌)

清水について知る人はごく少ないと思う。筆者も全く知らなかったが、今回、少々資料を集めたので、書いておきたい。

清水仁三郎は1878年(明治11年)2月19日、京都の建築家、清水清兵衛の次男として生れた。岡田より5年上ということになる。(次男なのになぜ、ニサブロウなのか)
同志社を経て、後に建築工学を学び、1902年に岩崎家の建築技師になった。「同四十四年(=1911年)、岩崎家建築事務閉鎖と共に(…)清水工務所を開設す」、と「人事興信録」(4版、1915年)にある。
ただし、1908年(明治41年)5月6日の朝日新聞には「多年コンゲル氏(コンドルの誤植)に学べる田中正蔵 清水仁太郎両氏は内幸町に … 建築工務所を開設せり」とあり、独立の時期は1908年が正しいかもしれない。
田中正蔵は河合浩蔵に学んだ後、コンドルの事務所に入った人物。後に横田組を興し、ガーディナー設計の内田定槌邸(1910年、現在の「外交官の家」)を請負ったという(「ジョサイア・コンドル展」図録所収の堀勇良氏の論考)。
また、清水は岩崎家の縁で、コンドルと身近に接する機会が多かったはずである。

清水は独立の前後から、設計の分野だけでなく、様々な事業に活動を広げている。
1907年(明治40年)、一時廃刊していた「日刊工業新聞」(現在の同名紙とは別)を復刊させ、社長に就任。また、箱根の強羅に旅館、後楽館を開いた。強羅で初めての旅館である(「大筥根山」1909年)。
他にも伊賀耐火煉瓦社長、播美鉄道常務など、多くの事業を手掛けた(「人事興信録」)。
1912年、京都府から立候補し、衆議院議員(11期)に当選している。立憲国民党に属した。折しも藩閥の桂内閣に対する批判から護憲運動が起こり、首相が辞任した(大正政変)。運動の中心だった国民党の犬養毅が「憲政の神様」と呼ばれることになるが、清水も政界再編の動きの中で奔走していたようである。

冒頭の話に戻って、首相官邸等を回る際、各団体代表に清水が加わったのは、元議員として仲介役的な立場を期待されたためだろうか。

清水の遺した作品はあまり知られていない。湯本の吉池旅館別荘(登録文化財)のほか、茶室が残っている程度のようだ。
吉池旅館別荘は岩崎建築事務所時代の「岩崎彌之助箱根湯本別邸」の和館部分(1904年)である。かつては隣接してコンドル設計の洋館(1909年)が建っていた。

後半生もよくわからないが、亡くなったのは1951年11月である(「歴代国会議員名鑑」)。

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コメント

(補足)日本建築士会の発起人の1人である、という説がありますが、「発起人」かどうかは未確認です。

大正3年6月6日、八重洲の中央亭で、長野、中條を幹事として「建築士懇話会」が開かれ、辰野、曽禰、保岡ら(12名)が集まり、これが後の日本建築士会につながります。12名中の1人が清水ということです。(近代日本建築学発達史P2040)http://www.aij.or.jp/da1/sekeishiryou/pdf/J7001835-12_01.pdf#page=70

投稿: 岡田ファン | 2014.09.16 21:18

意見書を官邸に提出した際、首相は「病中にて代理竹屋秘書官面会」ということです。
「職員録」を見ると、竹屋春光(子爵、松平家から養子入り、M16生)は内閣の職員の中では若手の方です。首相の代わりということならもう少し上の人間が対応しそうなものですが?
ちょっと気になりました。

http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/986600/28?tocOpened=1

投稿: 岡田ファン | 2014.09.21 09:47

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